『タイプフェイスデザイン漫遊』(今田欣一著、株式会社ブッキング、2000年)に「欣喜アンチック」という書体を試作している。その章のタイトルは「悠久の持続性」という大げさなものだった。筆者はずっと和字アンチック体に注目していた。アンチック体といえば、辞書の見出しや漫画のふきだしに使われる程度だったが、広い範囲で使われる可能性を感じていた。
そこで和字書体三十六景のなかでは「ことのは」という復刻書体を制作し、字面を大きくした「おゝことのは」ファミリーとして展開させた。小学館の『例解学習国語辞典』のために「小学館アンチック」の制作を依頼されたこともあった。さらには和字書体十二勝の「みなもと」と「たまゆら」、ほしくずやコレクションの「ときわぎアンチック」を制作してきた。
私にとって、これらの和字アンチック体の原点にあるのが「欣喜アンチック」であった。それから20年経って、「欣喜アンチック」のセルフカバーで、和字書体「きたりすアンチック」として制作してみようと考えた。これを起点として、「きたりす」というグランドファミリーを構築し、「きたりすロマンチック」、「きたりすゴチック」を制作することにした。
札幌市円山動物園の「こども動物園」には、エゾリス、エゾユキウサギ、エゾモモンガといった北海道の小動物を植物とともに展示した「ドサンコの森」がある。『生態写真集 キタリス』(竹田津実著、新潮社、2019年)という本があるが、エゾリスはキタリスの亜種である。
「きたりす」のような新刻書体の場合には、書風のイメージから連想して付けている。当初は、北海道に生息している「えぞりす」(蝦夷栗鼠)を名前にしようと考えたが、どうも語呂が良くない。蝦夷栗鼠が北栗鼠の亜種であることから「きたりす」(北栗鼠)に落ち着いた。
「きたりすロマンチック」
「きたりすゴチック」
「きたりすアンチック」