「静嘉堂文庫の古典籍 第五回 中国の版本―宋代から清代まで―」(2005年2月19日–3月21日)という展示が静嘉堂文庫美術館で開催された。
私が訪れた展示前期(2月19日–3月6日)には、南監本『南斉書』や『欽定古今図書集成』などが展示されていた。私は見逃してしまったが、展示後期には藩本『楽律全書』や毛氏汲古閣『殊玉詞』(『宋名家詞』のうち)などが展示されていたようだ。
前期・後期を通じて展示されていたのが四川刊本『周礼』であった。「漢字の歴史」展から16年ぶりの再会であった。しかも今度は実物である。来場者が少ない時間帯だったので、ガラス越しではあるが、ずっと立ち止まってじっくりと見ることができた。
実物を見て、あらためて四川刊本『周礼』の魅力が増してきた。とくに「竜の爪」といわれる収筆部の強さ。再会をきっかけとして、この書体を商品化しようと強く思った。
書体の名称は書体のコンセプトにかかわるものなので重視している。二転三転することも多い。当初「成都」と呼んでいたのを「竜爪(のちに龍爪)」と変更した。「成都」(仮称)は、原資料である四川刊本『周礼』の出版地からとったのだが、書体のイメージとは違う気がしてきた。
そこで、四川刊本の字様が、収筆部の形状から「竜爪体」といわれているので、そのまま「竜爪」とした。True TypeのリゾルバブルFONDリソースIDは「KRかもめ竜爪M」「KRさきがけ竜爪M」「KRもとい竜爪M」で登録した。(「KR」というのはTrue Typeの識別のためにつけたものでOpen Typeは「KO」である)
ところが販売代理店の朗文堂から注文がついた。「竜爪」(リュウソウ)は読めないので、販売するのが難しいとのことである。かくして朗文堂で作成されるCDジャケットやブックレットの「竜爪」(リュウソウ)には、ふりがなが付けるということになった。
これで一件落着だと思いきや、ファクシミリで送られてきたCDジャケットのデザインには、「竜爪」ではなく、「龍爪」と書かれていた。リゾルバブルFONDリソースIDは登録していたのでちょっと困惑した。
だが、「龍爪」のほうがかっこいいし、字体が違うだけだし、人名用漢字だし、JIS第一水準だし、繁体字では「龍爪」になるのだし、もう面倒になってしまって、そのまま「龍爪」を受け入れることにした。結果的に、これでよかったと思っている。