日本語フォントとして、欧字書体も必要となってくる。どうしても制作しなければならないのならば、和字・漢字書体に従属するという考えを超えて、和字・漢字・欧字書体を調和させることを念頭に置いた。
和字書体「さきがけ」、漢字書体「龍爪」に対応する欧字書体として制作したのが「K.E.Aries」である。和字書体、漢字書体が復刻した書体であるように、欧字書体も同じ制作方法であるべきだと考えたのだ。
15世紀、印刷の需要が高まっていたヴェネツィアに最初の印刷所を設立したのは、ドイツ人の兄弟ジョン・スピラ(?–1470年)とウェンデリン・スピラ(?–1478年)だった。スピラ兄弟は、手書き文字の模倣に過ぎなかったプレ・ローマン体から脱皮し、様式化されたヴェネツィアン・ローマン体となった。
そのヴェネチアン・ローマン体を完成させたのは、フランス人の印刷者ニコラ・ジェンソン(1420年?-1481年)であった。よりも洗練されて読みやすい活字書体となり、こんにちのローマン体の元祖とされるヴェネチアン・ローマン体が完成したのだ。
ジェンソン活字を使用して印刷されたのがプリニウス著『博物誌』(1472年)である。紀元一世紀の著述家プリニウスの現存する唯一の著作で、古典ローマ世界のあらゆる知識を網羅した百科全書をして知られている。活字版印刷においても、重要な印刷物のひとつとされている。
制作の参考にしたのは、この『博物誌』の1ページである。制作にあたって、ここにあるだけのキャラクターを抜き出して、アウトラインをなぞってみた。
ジェンソン活字は近代になって復刻され、アルバート・ブルース・ロジャースの「セントール」などが制作された。近年でもロバート・スリムバックの「アドビジェンソン」が制作されている。これらも逐次参考にした。