2020年09月03日

「KOばてれん志安M」のものがたり2

漢字書体「志安」のはなし(前)
「ばてれん」に組み合わせる漢字書体の候補として、中国・元代の代表的な刊本字様からひとつを選び出すことにした。
天理大学附属天理図書館で、1999年(平成11年)10月19日から11月7日まで開催された開館69年記念展「宋元版—中国の出版ルネッサンス」は、東京・天理ギャラリーでも、2000年5月14日から6月10日まで、天理ギャラリー第114展として開催された。
展示は「宋版」と「元版」に分けられていた。「元版」の中のひとつに『分類補註李太白詩』(勤有書堂、1310年)があった。実はこの展示に行くことができず、直接見ることができなかったのは残念だったが、後日、図録を手に入れることができた。

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元代は、モンゴル族による征服王朝であったために、漢民族圧迫政策がとられた。書物の出版にはきびしい制限が加えられたが、それでも福建地方の民間出版社では多くの書物を刊行していた。福建省北部の建陽と建安(現在の建甌)が中心地で、余氏の勤有書堂も建安にあった。
元朝体として私が取り上げた刊本は、『分類補註李太白詩』である。余志安の勤有書堂の刊本字様に、元時代の福建刊本の特徴がよくあらわれていると感じたからだ。
『分類補註李太白詩』は、李白の作品集の現存する最も古い注釈書だそうだ。その刊本字様は脈絡を残した行書風の書体で、これを元体、わが国の活字書体での言い方では元朝体となる。
『分類補註李太白詩』をベースにして制作しているのが漢字書体「志安」である。書体名は勤有書堂の余志安から採った。