2020年09月04日

「KOばてれん志安M」のものがたり3

漢字書体「志安」のはなし(後)

「この手の書体は使い道がないなあ……」という周囲の声に耳をかたむけず、ことさら難しいのにもかかわらず、漢字書体「志安」を制作した。まあ、大手のメーカーではおそらく制作しないだろう。宋朝体でさえ、それほど多くは制作されていないのだから、元朝体などなおさらだ。
明朝体や宋朝体は知られているが、元朝体はあまりなじみがない。楷書体系統の漢字書体は中国のそれぞれの王朝の時代をあらわす名称で呼ばれてきた。元朝体は刊本字様としては存在するのに、活字書体としての元朝体を私はみたことがない。だから作っておきたいのだ。
もうひとつの動機は、宋朝体と元朝体の関係が、なんとなく欧字書体におけるローマン体とイタリック体に当てはまるのではないかと思ったからだ。もちろんまったく無関係なのだが、私にはそのように感じられたから。なにか新しい使い方ができるのではないかと密かに期待している。