現代の日本語書体は、和字書体・漢字書体・欧字書体が揃ってはじめて成立することになる。欧字書体も必要である。候補として、オールドローマン体を当てることにした。
候補の一つは、アルダス・マヌティウス(1449年–1515年)の工房の活字書体である。この工房において、多数のギリシャ・ローマ時代の古典文学を出版した。活字父型彫刻師フランチェスコ・グリフォ(1450年?–1518年?)の手になる活字書体は、ビエトロ・ベンボ(1470年–1547年)の著作『デ・エトナ』(1495年–1596年)に使われた。オールド・ローマン体の成立を決定づけるものといわれる。
フランチェスコ・コロンナ(1433年–1527年)の著作『ポリフィラスの夢』(1499年)の製作もアルダス工房で請け負っている。この書物では『デ・エトナ』に使われた活字を改刻して、大文字がより威厳を増している。
もうひとつの候補は、クロード・ギャラモン(?–1561年)の活字書体である。ギャラモンは、印刷人シモン・ド・コリーヌ(1470年?–1546年)らとともにアルダス工房の活字を分析して、フランス語に適するように試行錯誤を重ねていった。
完成したギャラモンの活字は、コリーヌの義理の息子ロベール・エティエンヌ(1503年–1559年)によって印刷された『ミラノ君主ヴィスコンティ家列伝』(1549年)など、パリの印刷人によって多くの書物にもちいられた。オールド・ローマン体の地位が確立していくことになる。
「きざはし」、「金陵」との組み合わせでは、ギャラモンの活字の方が好ましいように思われた。ギャラモン活字が使用されている『ミラノ君主ヴィスコンティ家列伝』から抽出したキャラクターをベースに、日本語組版に調和するように制作したのが「K.E.Taurus」である。