2020年09月23日

「KOまどか毛晋M」のゆめがたり3

欧字書体「K.E.Gemini」のはなし(未制作)

欧字書体も候補はふたつだった。17世紀のオランダを代表するクリストフェル・ファン・ダイク(1601年−1669年)の活字書体と、18世紀のイギリスを代表するウィリアム・キャズロン(1692年−1766年)の活字書体だ。
ファン・ダイクを筆頭とするオランダのオールド・ローマン体は、独特の黒みや骨格の頑丈さをもっているために、現在では「ダッチ・オールド・ローマン」と呼ばれている。ファン・ダイクは、当時最高水準にあったアントワープのプランタン印刷所で、ギャラモン活字をしっかりと研究していたと推測されている。オールド・ローマン体の流れをファン・ダイクがうけついだといえる。
オールド・ローマン体は、イタリアで生まれ、優美なフランス活字、武骨なオランダ活字へと地域的な変化を遂げながら、ついにはイギリスに到着した。
当時のイギリスはオランダのローマン体が流行していた。キャズロン活字はアムステルダムの父型彫刻師ディルク・ヴォスケンスの活字をモデルにしたといわれるが、その武骨な特質を穏やかにして洗練さをくわえたことによって「イギリス風で快い」という称賛をえた。
両者を比べた上で、後期オールド・ローマン体のキャズロン活字(再鋳造)が使用されている『The Diary of Lady Willoughby』(1844年)から抽出したキャラクターをベースに、日本語組版に調和するように制作したのが欧字書体「K.E.Gemini」である。
「アドビ・キャズロン」は、1990年に、キャロル・トゥオンブリー(Carol Twombly , 1959年– )がウィリアム・キャズロンの活字書体をベースにした複刻書体である。「K.E.Gemini」の制作にあたり、これも参考にしている。
posted by 今田欣一 at 08:29| Comment(0) | 活字書体の履歴書・第6章 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする