ちょうど10年目に当たる2018年5月に、ミーティングを兼ねて訪問することにした。日頃はメールでやり取りをしていて、それで特に問題はないが、実際に担当している方に直接面談することも必要なことだと思う。
2018年5月9日、朝から本降りの雨。季節が逆戻りしたような寒さ。加えて、川越線が10分ほど遅延。小さなトラブルを乗り越えて、10時ちょうど。大宮駅から「はやぶさ11号」に乗車。北海道に向かう。新青森まで東北新幹線、新青森から新函館北斗までが北海道新幹線だ。2016年3月に開業している。北海道新幹線には初めて乗ることになる。
「typeKIDS」は活字と書物にまつわる小さな勉強会だ。書体制作の体験学習を考えていたとき、ある雑誌に3Dプリンターによる樹脂活字の記事があった。新しい書体の樹脂活字って面白いんじゃないか。
「貘B」は私が学生時代に金属活字の書体として原図を描いていた書体である。当時、活版印刷の実習を体験して、オリジナル書体を金属活字にしたいと思ったのだが、日の目をみないまま埋もれていた。そういう個人的な思い入れもあり、勉強会で金属活字の製作から印刷までを体験するのに、ちょうどいいサンプルになると考えた。
そこで金属活字の原図の制作工程を模して、2インチ角の下書き用紙に鉛筆で下書きをし、アウトラインでトレースして墨入れをし、チェックを繰り返しながら完成させた。データ化した3次元CADデータを使って3Dプリンターで樹脂活字を作った。
これを卓上式活版印刷機で印刷してみた。表面が平滑でないためきれいに印刷できなかったがが、貴重な経験になったと思う。
乗車してすぐに雨はあがっていた。ずっと車窓の景色を見て過ごす。鉄道旅の楽しみだ。11時7分、仙台に到着。
写研の新人研修のカリキュラムが原字制作の初心者にとって、今でも有効な方法だと私は思っている。typeKIDSに学生が参加することになって、手動写真植字機用の文字盤をつくるというプロジェクトということで、この新入社員教育のカリキュラムを実践してみることにした。
このプロジェクトでは、漢字書体の近代明朝体・ゴシック体・アンチック体、各12字の原字を、48mm角の原字用紙にアナログで制作した。原字制作の工程としては、樹脂活字プロジェクトのときと同じである。
できあがった原字を縮小してネガフィルムにして簡易文字盤・四葉に貼り込んだ。これを手動写真植字機にセットして、テスト印字物をつくった。漢字のみで制作した文字数も少なかったので、文章を組むことはできなかったが、書体制作の体験という目的は達成されたと思う。
盛岡には11時47分に到着。盛岡駅を通過した後、車内販売で買った駅弁を食べる。これも鉄道旅である。
電算写植は簡単に体験できるような環境にはなかったので、typeKIDSでは取り上げられなかった。岡山県立大学デザイン学部では電算写植システムを導入していたが、おそらく教育機関では唯一だったのではないか。
金属活字組版や手動写植機は取り上げられることはあるが、電算写植システムは極めて少ない。なんとか取り上げられないものかと考えていたが、残念ながら何も思いつかなかった。
原字制作の方法は、手動写植の時と同じようにアナログで作ったのをデジタル化するか、ワークステーションを使ってデジタルで制作するかということなのだが、いずれにしても特別なことは何もなかった。
新青森には12時35分に到着。どんよりしていた空もすっかり明るくなっていた。東京駅を起点にすると、新青森駅は、岡山駅と同じぐらいの距離である。
typeKIDS は、1997年から2009年まで池袋コミュニティカレッジで断続的に開講していた講座「活字書体に親しむ」を発展的に解消して、2009年4月より活動を始めた。デジタルタイプでの書体制作は、池袋コミュニティカレッジの講座で行っていた。その時には、受講者がオリジナルの和字書体(ひらがな・カタカナ)をデジタルタイプで制作した。
池袋コミュニティカレッジの講座の発表展示会として、2007年3月21日から26日までMAUVE GALLERY において発表展示会を開催した。受講者が制作したオリジナル書体を用いて、各自が組版し、プリントし、手作り製本した書物を展示した。あわせて書体見本と制作意図をまとめたパネルと、制作過程を記録したファイルや参考にした資料なども展示したものだ。
typeKIDSではデジタルタイプでの書体制作はできなかった。少し心残りではあるが、私にはそれを行うには力不足だったように思う。
30年振りに青函トンネルを通過。青函トンネルができた年以来だが、今回は新幹線で超えた。13時38分、新函館北斗着。東京駅からだと広島駅と同じぐらいの距離である。
ここで途中下車して、五稜郭公園の箱館奉行所に向かう。
30年前に訪れた時には影も形もなかったが、2010年に、日本伝統建築の匠の技により140年の時を超えて復元されたのだ。感動的なものだったので、思わずDVDを購入した。