2023年09月13日

[追想6]『+Designing 44』と「美華」「伯林」「倫敦」

『+Designing 44』(マイナビ出版、2017年9月29日発行)というムックに、私のインタビュー記事が掲載されました。
取材は2017年8月17日に行われました。夏休みで盆帰省していたということもあり、せっかくだから、旧閑谷学校でやろうと提案しました。写真は国宝の講堂で撮影したものです。校門の写真も掲載されました。ここでのインタビューが実現したのは、たまたま取材の日程が帰省と重なったからですが、和気閑谷高校・旧閑谷学校の知名度アップに少しでも貢献できればと思います。

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その記事で「日本語書体三傑」の構想が紹介されました。漢字書体においては、美華書館の近代明朝体を復刻した「美華」、東京築地活版製造所が制作していた呉竹体を復刻した「伯林」、安竹体を復刻した「倫敦」の主要三書体です。実際にリリースすることは無理だとしても、欣喜堂としての大きな柱となりうるものだと考えています。

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和字書体としては、「和字おゝはなぶさ Family 7」(2009年)、「和字おゝくれたけ Family 9」(2009年)、「和字おゝことのは Family 9」(2012年)としてリリースしましたが、これに漢字書体、欧字書体を組み合わせて、グランド・ファミリーとして構築しようと考えたのです。
さらには、ほしくずやコレクション「和字Southern Cross 4」(2015年)の和字書体「ときわぎロマンチックW3」「ときわぎゴチックW6」「ときわぎアンチックW6、W9」との組み合わせも考えています。
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2023年09月12日

[追想6]『デザインのひきだし26』から始まった「白澤」

『デザインのひきだし26』(グラフィック社、2015年10月25日発行)というムックで、「もじ部 フォントの目利きになる!15 typeKIDS(今田欣一と仲間たち)編」という記事が掲載されています。

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その中で、漢字書体「白澤中明朝」「白澤太ゴシック」「白澤太アンチック」が取り上げられています。これはtypeKIDSという勉強会の体験学習のためだけに書体見本を作成したものです。

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その後、「もじ部 フォントの目利きになる!」という連載記事が、『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びのコツ』(雪朱里+グラフィック社編集部編著、グラフィック社、2015年)として出版され、さらには中国語(繁体字版、簡体字版)でも翻訳出版されました。
当初は欣喜堂として制作するつもりはなかったのですが、ここに至って、何らかのカタチで継続しようかと思うようになりました。なにより「白澤」という書体名に愛着が湧いてきたのです。白澤とは古代中国において、鳳凰、麒麟と同じように、有徳の王の時代に現れるという想像上の神獣です。
漢字書体は漢字表記にしたかったので、書体名を「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」に変更しました。ほしくずやコレクション「和字Big Dipper 3+3」(2023年)の和字書体「きたりすロマンチックW3」「きたりすゴチックW6」「きたりすアンチックW9」、および「みそらロマンチックW3」「みそらゴチックW6」「みそらアンチックW9」に組み合わせることを前提に、現代的な筆法・結法になるようにしました。
組み合わせる欧字書体としては、フレイヘイド・セリフ(Vrijheid Serif)、フレイヘイド・サン(Vrijheid Sans)、フレイヘイド・スラブ(Vrijheid Slab)として制作しています。フレイヘイドとは自由を意味するオランダ語で、幕末当時の言い方だそうです。
いずれにせよ、発売することのない「見果てぬ夢」の書体ですが、欣喜堂として記録に残しておきたいと思います。

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2023年09月05日

[追想4]合成作字していますけど?

漢字書体の制作について、ある人から、
「タイプデザイナーは偏と旁を組み合わせて合成作字している。一字一字、その意味を考えながら、気持ちを込めて制作すべきだ」
と言われました。うーん。活字書体に制作者の気持ちを乗せられてもなあ。読む人にとっては、そんなことを考える人はいないでしょう。
よく言われる「空気のような、水のような」、ストレスを感じない活字書体が理想とされています。私は、ストレスのない程度に心地よい揺らぎがあっても良いのではないかと思い、「そよ風のように、さざ波のような」ということを心がけています。いずれにせよ、活字書体は芸術作品ではなく、実用性が第一なのです。
活字書体は、書写の手間を省くために合理化する目的で考えだされたものです。「用の美」という表現がありますが、工業製品として効率よく制作することが望まれます。

合成作字は、多くのタイプファウンドリーで取り入れられている手法です。『印刷文字の生成技術 書体設計・字游工房の場合』(森啓編著、女子美術大学、2010年)では、「游明朝体の漢字」を例に、制作手順が語られています。

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字游工房では書体見本12文字に続いて、第2次規準400字を制作するようです。この400字は字種も公開されていますが、代表的な偏・旁・冠・脚・垂・繞・構がふくまれており、おそらくこの400字+12字を元に合成作字することで、書体としての完成を目指すのではないかと思われます。
ちなみに写研では、第1書体見本12字、第2書体見本11字、雛形字種289字を作成した後、これを元に、合成作字のリストに従って字種を拡張していました。欣喜堂では少し曖昧になっていますが、基本的には、書体見本12文字と先行制作字種約300字を元に、合成作字のリストに従って字種を拡張しています。
他社のことは承知していませんが、同様の方法で制作しているところもあるように思います。
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2023年09月03日

[追想5]真逆のベクトル

第165回芥川賞受賞『貝に続く場所にて』(石沢麻衣著、講談社、2021年)のジャケット、帯に「SDときわぎロマンチックW3」が使われています。装幀は川名潤さんです。

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『フォントのはなしをしよう』(パイインターナショナル、2021年)は、「ブックデザインとフォント」、「ブランディングとフォント」、「雑誌、ウェブとフォント」というフィールドで活躍されているグラフィックデザイナーのインタビューで構成されている。「ブックデザインとフォント」の中のひとり川名潤さんのインタビューで、「SDときわぎロマンチックW3」が取り上げられている。

好きなフォントは、欣喜堂の今田欣一さんの書体です。たとえば〈SDときわぎロマンチック〉という書体。綺麗な明朝体ですが、ディテールがギスギスしていて好きなんですよ。(中略) 欣喜堂の書体は古い書体に元ネタがあって、活字時代の筆の運びが残っているところが好きなんです。

「SDときわぎロマンチックW3」の元ネタというのは、『右門捕物帖全集第四巻』(佐々木味津三著、鱒書房、1956年)です。「西武古本市」でたまたま見つけて、今では見られない力強い本文書体に魅了され、これを復刻したいと思って購入したのでした。
この活字書体を誰が制作されたのかはわかりません。60年以上前には、多くの書籍で使われ、多くの人々に親しまれてきた書体だと思います。今は継承されていないこの魅力的な書体を蘇らせることにしたのです。

一方で、川名さんは「今までに見たことのない」新奇な書体にも目を向けているようです。

それとはおそらく真逆に、まったく新しい書体の形を模索しながら作られている、フォントワークスの藤田重信さんの書体を使うことも多いです。マンガの装幀では藤田さんの〈筑紫Cオールド明朝〉を使います。絵に負けない書体というか、絵が強いから、藤田さんのグイグイ来る書体もフィットするのかもしれません。

今田さんと藤田さんの書体を混植することもありますが、真逆のベクトルで作られていると思うので、罪の意識にかられます(笑)。

まさに!(笑)
posted by 今田欣一 at 11:03| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・5 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする