2023年10月14日

[追想5]ライセンス(使用許諾)について

有限会社今田欣一デザイン室のデジタルタイプの使用許諾について、ウェブサイトのページに次のように記載しています。

使用許諾
有限会社今田欣一デザイン室は、OpenTypeを購入された方に、以下の条件のもとで使用を許可します。
1 このデジタル・タイプの著作権などの一切の権利は、有限会社今田欣一デザイン室に帰属しています。購入された方は、購入によって使用権を得るだけとします。
2 購入された方は、一台の機器にかぎって使用することができます。一台の機器のみにインストールしたものであれば、複数人で使用してもかまいません。
3 デジタル・タイプの複製、改変、配布することは禁じます。購入された方が所有する機器以外で第三者が使用することは禁じます。デジタル・タイプのデータを含むゲームなどの販売・配布することは認められません。
4 デジタルタイプを使用した際に発生した機器およびソフトウエアの故障、誤動作、誤出力、ウイルスへの感染などに関して、有限会社今田欣一デザイン室は責任を負わないものとします。


この使用許諾は、プロフェッショナル(法人・個人)を主な対象にしたものです。この中で「一台の機器にかぎって」ということについて提案していただいていますので検討していきたいと思います。

商用と個人使用

欣喜堂ブランドでの販売において、個人の(プロではない)新しい顧客層の獲得を目指したいと思っています。ただ、ブランドイメージは守りたいので、売れ筋とは逆行しますが、ポップ的な方向ではなく、同人誌などの本文がメインであることは変わりありません。
現実的に、欣喜堂ブランドでの販売は、法人よりも個人が多くなっています。また法人においてもデザインを専業としない企業の方が増えています。職種別においても、いわゆるクリエイターではない人が、クリエイターの売上を超え、今なお成長が続いているようです。
スマートフォンやタブレット、電子書籍リーダーでの利用も増えているようです。特に若い世代を中心にPC(WindowsやMac)だけではなく主にタブレットやスマートホン(iPhone/iPad)でフォントを使ってクリエイティブを行うケースが増えています。そうなると、個人での使用の場合には「一台の機器にかぎって」ということでは現状に合わなくなっているのかもしれません。
また、PCのインストールではなく、Canvaなどのオンラインのデザインツールでの利用もあるそうです。これは各サービスのユーザーマイページよりサーバーにアップロードすることでそのユーザーだけが使えるようになるというもので、こういった利用の仕方への対応も考えていく必要があるのかもしれません。
posted by 今田欣一 at 14:48| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・5 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月12日

[追想4]復刻と翻刻

復刻とは、書物として以前に出版したものを新しく版を作り直し、もとのとおりに刊行することです。転じて、もともと活字書体として制作されたものを、デジタルタイプとして再生することを復刻とします。
翻刻とは、写本・版本などを、原本どおりに活字に組むなどして新たに出版することです。転じて、書字やレタリング(木版印刷など)から、デジタルタイプとして制作することを翻刻とします。
新刻とは、新たに版木を刻むことです。転じて、下書きから書き起こして制作することを新刻とします。

和字書体の復刻書体は、誇張した解釈をしないことが基本です。しかしながら、現在の日本語組版で求められる条件により、まったく同一にしなければならないということではありません。大きさ、太さ、寄り引きなどの検討が重ねられることは当然のことです。
翻刻(書字・レタリング→活字)では、同じキャラクターでもすべて異なるカタチになります。抽出にあたっては、連綿していない文字のうち、全体の書風が現れているものを注意深く選び出しました。翻刻の場合、この判断が書体そのものを決定づける重要なプロセスとなります。
新刻書体といっても、頭の中にあるイメージだけで制作するということではなく、既成のさまざまな書体を比較検討しながら、目的に適ったカタチを追求しています。

漢字書体の制作において、新規に書き起こす書体を新刻書体、すでに存在するものから再生する書体を復刻書体・翻刻書体といいます。再生するオリジナルが活字の場合を復刻書体、書字・刻字・レタリングの場合を翻刻書体と言うことにします。
復刻書体・翻刻書体は、書道の臨書に近いと思います。臨書とは、古典をお手本とし、手本の書風を取り込むことです。臨書には手本を忠実に書き写す形臨と、手本を書いた人の意思を汲み取りながら行う意臨と、手本を見ないで記憶して書く背臨の三種類があります。
復刻書体・翻刻書体を書道の「臨書」に例えるならば、新刻書体は、「自運」にあたります。自運とは手本を使わず自分の意のままに筆を動かすことです。

欣喜堂の欧字書体は、ほとんど復刻書体です。日本語書体を形成するために制作するのですから、和字書体、漢字書体と同じように復刻書体でなければならないと考えました。
欧字書体十二宮はすべて金属活字の書体からの復刻で、セリフ系が6書体、サンセリフ系が3書体、スラブ系が1書体、その他(イタリック、スクリプト)が2書体です。いずれも、書物や書体見本帳、広告などを原資料としています。追加で制作した欧字書体四天のうち、サンセリフ系1書体、その他(イタリック)1書体も金属活字の書体からの復刻で、書物や広告を原資料としています。


posted by 今田欣一 at 16:51| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・4 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年10月09日

[追想5]フォントの品質

SNSに、フォントの品質についての投稿で、品質を判断する条件として、次の4項目が挙げられていました。

収録字数が多い
ファミリー(ウエイト)が揃っている
カーニング情報が優れている
メーカーに信頼性がある

欣喜堂で発売している活字体は、いずれの項目も満たされていません。すなわち品質が悪く、完成度も低いとみなされてしまうようです。

収録字数の課題
OpenTypeフォントの製品においては、アドビシステムズ社が日本語DTP用に開発したAdobe-Japan1が事実上の基準となっています。一九九〇年代に定義された1-0から最新の1-7まで、順次字数が追加されています。
欣喜堂の「龍爪」「金陵」「蛍雪」「銘石」は、Adobe-Japan1-1にほぼ(不足あり)準拠しています。90JIS(JIS第一水準・第二水準漢字)に対応しており、8359グリフです。「陳起」「志安」「武英」「方広」は、Adobe-Japan1-3(Std)にほぼ(不足あり)準拠しています。Adobe-Japan1-1にIBM選定文字、記号などが追加された9354グリフです。
本文用フォントとしては、Adobe-Japan1-7(Pr6/Pr6N)に準拠することが必要とされます。JIS2004(JIS第三・第四水準漢字)と補助漢字(JIS X 0212:1990)をカバーしています。23060グリフあります。
Adobe-Japan1-7(Pr6/Pr6N)に対応するにはかなり敷居が高いので、まずはAdobe-Japan1-3(Std/ Std N)に完全対応できるようにしたいと思います。

ファミリー
ファミリー(ウエイト)もフォントの完成度の条件になってきています。欣喜堂では次のようにウエイト(太さ)の段階を設定しています。「日本語書体八策」「日本語書体三傑」でファミリーの試作をしています。

W1 Tn(シン=Thin)
W2 L(ライト=Light)
W3 M(メディウム=Medium)
W4 Tk(シック=Thick)
W5 DB(デミボールド=Demi Bold)
W6 B(ボールド=Bold)
W7 EB(エクストラボールド=Extra Bold)
W8 UB(ウルトラボールド=Ultra Bold)
W9 Bk(ブラック=Black)
W10 H(ヘビー=heavy)

能力不足で、これをすべて制作することができません。
このなかでは金陵M/Bが発売済です。さらに銘石Bのファミリーとして銘石Mを制作中です。ファミリーといっても銘石Bは見出し用ですが、銘石Mは本文で使えるように筆法・結法を大幅に見直しながら進めています。

カーニング
カーニングについても対応できていません。「日本語書体八策」の武英については欧字書体の一部の組み合わせで実施していますが、和字書体は実施していません。少しずつ対応していきたいと思っています。

メーカーの信頼性
零細タイプ・ファウンドリーでは知名度も高くなく、技術的にも信頼性に欠けていると思われるのが現実です。ダウンロードサイトと連携をとりつつ、バージョンアップなど、こまめに対応していきたいと思います。
posted by 今田欣一 at 20:44| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・5 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする