国語辞典の見出し語も、最近ではゴシック体で組まれることが多くなってきたようだが、少し前まではほとんどの辞書がアンチック体で組まれていた。アンチック体は、国語辞典だけでなく、漫画の吹き出しや、絵本などでも多く使われている。
「小学館アンチック」という書体は、『例解学習国語辞典 第九版』(金田一京助編、小学館、2010年11月19日)のために、小学館国語辞典編集部からの依頼により、欣喜堂で新しく制作したアンチック体である。
欣喜堂では、和字アンチック体のカテゴリーに含まれる書体として、『辞苑』(新村出編、博文館、1935年)から再生した「ことのは」(和字書体三十六景)を、さらに『言海』(大槻文彦著、六合館、1931年)から再生した「たまゆら」(和字書体十二勝)を制作していた。いずれも辞書の見出し語に使われていた書体である。
ある人から、アンチック体の初期のものが『新撰讃美歌』(植村正久・奥野昌綱・松山高吉編輯、警醒社、1888年)に使われているようだと教えられた。さっそく国立国会図書館から複写物を取り寄せたが、江戸文字に近く、現在の和字アンチック体のイメージとは異なっていた。しかも字数が不足していた。
しばらくはそのままにしていたが、よく見ると魅力的に思えてきた。これをもとにして「みなもとBK」という書体として再生することにした。