星屑のステージ 第1幕
◆「きたりす白澤明朝」「きたりす白澤呉竹」「きたりす白澤安竹」
「きたりすロマンチック」+「白澤明朝」、「きたりすゴチック」+「白澤呉竹」、「きたりすアンチック」+「白澤安竹」の欧字書体は、それぞれ「Vrijheid Serif」「Vrijheid Sans」「Vrijheid Slab」を制作している。
和字書体「きたりすロマンチック」「きたりすゴチック」「きたりすアンチック」
『タイプフェイスデザイン漫遊』で発表した「欣喜アンチック」を発展させて「きたりすアンチック」を制作している。これに「きたりすロマンチック」「きたりすゴチック」を加えた。
漢字書体「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」
デジタルタイプ新世代として、近代明朝体の「白澤明朝」、ゴシック体の「白澤呉竹」、アンチック体の「白澤安竹」を試作している。白澤とは古代中国において、鳳凰、麒麟と同じように、有徳の王の時代に現れるという想像上の神獣である。
勉強会の写植文字盤プロジェクトで、体験学習のために「白澤中明朝」「白澤太ゴシック」「白澤太アンチック」の書体見本を作成した。書体見本12字を48ミリメートル角の専用下書き用紙に鉛筆で描き、フィルムに墨入れをして原字とした。これを縮小して簡易文字盤(四葉)に貼り込み、手動写真植字機PAVO-KYでテスト印字まですることができた。
この時、近代明朝体、ゴシック体とともに、漢字書体としてはあまり馴染みのないアンチック体を試作している。
① 東京築地活版製造所の見本帳で、「五號明朝」、「五號ゴチック形文字」とともに、「五號アンチック形文字」が掲載されていること。
② 写研の手動写植機文字盤に「石井横太明朝」があり、この書体について、佐藤敬之輔氏が『ひらがな 上』(丸善、一九六四)のなかで「要するに漢字を加えたアンチック体である」と書いていること。
③ 写研のレーザー式電算写真植字機用デジタルタイプとして、本蘭ゴシック・ファミリーとともに本蘭アンチック(発表時は本蘭A明朝)・ファミリーが企画されていたこと。
以上のような経緯を踏まえて、近代明朝体、ゴシック体と並ぶ主要書体として、漢字書体のアンチック体を確立しておこうと思い、あえて試作しておくことにしたのである。
勉強会では、写植文字盤を製作して、テスト印字まで行ったところで終了したのだが、さらにデジタルタイプとして継続していこうと考えた。デジタルタイプ化にあたり、書体名を「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」に変更した。漢字書体は漢字表記にしたかったからである。
もうひとつ、『タイプフェイスデザイン漫遊』(今田欣一著、株式会社ブッキング、2000)で試作していた「欣喜明朝W3」「欣喜ゴシックW3」という書体があった。ここで「欣喜アンチックW3」は、漢字書体を試作していなかった。
このふたつを原点にしながら、デジタルタイプとして新しいイメージで作ってみようと考えた。
欧字書体「Vrijheid Serif」「Vrijheid Sans」「Vrijheid Slab」
和字書体「きたりす」、漢字書体「白澤」と混植する欧字書体として、「フレイヘイド」を制作する計画である。具体的には、フレイヘイド・セリフ(Vrijheid Serif)、フレイヘイド・サン(Vrijheid Sans)、フレイヘイド・スラブ(Vrijheid Slab)として、統一してデザインすることである。
できれば従属欧文ということばは使いたくない。日本語フォントは、和字書体・漢字書体・欧字書体が対等な関係だと考えて設計しているからだ。だから、たとえ日本語フォントの中の欧字書体であっても、「フレイヘイド(Vrijheid)」のように固有の書体名をつけることにしている。
新刻といっても資料をまったく見ないということではない。出島版『トラクタート(TRAKTAAT)』(ドンケル・キュルティウス編、1857)に用いられた活字書体を参考にして、下書きから書き起こす方法で制作している。
「Vrijheid(フレイヘイド)」は、箕作阮甫を主人公にした小説『フレイヘイドの風が吹く』(市原真理子著、右文書院、2010)から取った。
フレイヘイドとは自由を意味するオランダ語で、幕末当時の言い方である。オランダ語の発音とは異なるそうだが、書体名としては日本での慣例に従い「フレイヘイド」としておく。
[きたりす白澤明朝]
[きたりす白澤呉竹]
[きたりす白澤安竹]
(2021年5月12日更新、2021年7月10日更新、2023年4月6日更新)