ところで、それ以前の『文字とビジュアルのいい関係グラフィックス』(ピエ・ブックス、2008年)でも「欣喜堂」として掲載されていますが、その編集をされているときに、
「欣喜堂? 間違いじゃないの?」
という関係者からの問い合わせがあったようです。
朗文堂はブックコスミイクという自主流通の書籍の委託販売と、タイプコスミイクというデジタルタイプの委託販売を取り扱っています。タイプコスミイクでは、欣喜堂のほかにも、株式会社モトヤ、有限会社字游工房、タイポデザインアーツなど、各社のデジタルタイプの委託販売をしていました。
フォントデータは朗文堂タイプコスミイクのCD収録のものとEコマーズ・サイト(デザインポケット、アフロモール、フォントガレージ、フォントファクトリー)からDLしたものとは全く同じものです。フォント内部の情報でも「有限会社今田欣一デザイン室」「Kinichi Imada Design Studio Inc.」と記しています。
朗文堂タイプコスミイクのCDジャケットにも、同じように「書体設計は欣喜堂によるもの、販売は朗文堂タイプコスミイクによるもの」と明記されています。
Eコマーズ・サイトでの委託販売については「委託販売契約」を締結しており、個々のフォントについては別途文書を提出し、また追加や除外も同様にできるように決められています。また、双方合意の上で、定価、仕切り率が決められています。
ところが、朗文堂の場合には「委託販売契約」を締結していませんでした。存在するのは「和字Revision 9」の「覚え書き」だけです。
「和字Revision 9」所収の9書体の和字の原字著作権は甲に帰属します。甲がほかの書体開発会社にたいして「和字Revision 9」所収の9書体のすべて、あるいはその一部書体のデータを供給することは自由です。
「和字Revision 9」以降の書体は、これを踏襲することが暗黙の了解でした。「書体開発会社」とは、モリサワやフォントワークスなどのメーカーを指しています。甲(有限会社今田欣一デザイン室)が、Eコマーズ・サイトから販売することはまったく問題のないことです。
なぜ「欣喜堂? 間違いじゃないの?」という疑問が生まれたのでしょうか?
おそらく『基本日本語活字見本集成』(誠文堂新光社、2007年)、『フォントスタイルブック』(ワークスコーポレーション、2008年)、『フォントブック 和文基本書体編』(祖父江慎監修、毎日コミュニケーションズ、2008年)と『フォントブック 伝統・ファンシー書体編』(祖父江慎監修、毎日コミュニケーションズ、2009年)などで、「朗文堂」として掲載されていたことにあるのではないかと思います。
とりわけ『フォントブック 和文基本書体編』においては、川越の書店で見つけて、欣喜堂の書体が「朗文堂」として掲載されていることを確認しました。これでは「朗文堂がタイプデザイナーの今田欣一に発注して制作した」という誤解が生じてもおかしくはありませんね。
困ったことには、フォント販売サイトの取り扱いメーカーにも「朗文堂」と書かれてしまっています。Eコマーズ・サイトでの販売は、朗文堂は全く関わっていません。この件を編集者に話しましたところ、改訂版を作成するときに訂正するとのことでした。
『改訂版 実例付きフォント字典』以降は、やっと「欣喜堂」というブランドが定着してきたということでしょうか?