2023年09月05日

[追想4]合成作字していますけど?

漢字書体の制作について、ある人から、
「タイプデザイナーは偏と旁を組み合わせて合成作字している。一字一字、その意味を考えながら、気持ちを込めて制作すべきだ」
と言われました。うーん。活字書体に制作者の気持ちを乗せられてもなあ。読む人にとっては、そんなことを考える人はいないでしょう。
よく言われる「空気のような、水のような」、ストレスを感じない活字書体が理想とされています。私は、ストレスのない程度に心地よい揺らぎがあっても良いのではないかと思い、「そよ風のように、さざ波のような」ということを心がけています。いずれにせよ、活字書体は芸術作品ではなく、実用性が第一なのです。
活字書体は、書写の手間を省くために合理化する目的で考えだされたものです。「用の美」という表現がありますが、工業製品として効率よく制作することが望まれます。

合成作字は、多くのタイプファウンドリーで取り入れられている手法です。『印刷文字の生成技術 書体設計・字游工房の場合』(森啓編著、女子美術大学、2010年)では、「游明朝体の漢字」を例に、制作手順が語られています。

UB4_5.jpg

字游工房では書体見本12文字に続いて、第2次規準400字を制作するようです。この400字は字種も公開されていますが、代表的な偏・旁・冠・脚・垂・繞・構がふくまれており、おそらくこの400字+12字を元に合成作字することで、書体としての完成を目指すのではないかと思われます。
ちなみに写研では、第1書体見本12字、第2書体見本11字、雛形字種289字を作成した後、これを元に、合成作字のリストに従って字種を拡張していました。欣喜堂では少し曖昧になっていますが、基本的には、書体見本12文字と先行制作字種約300字を元に、合成作字のリストに従って字種を拡張しています。
他社のことは承知していませんが、同様の方法で制作しているところもあるように思います。
posted by 今田欣一 at 08:23| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・4 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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