2023年08月24日

[追想6]同じ舞台に立たせてもらえなかったけど……

「佐藤敬之輔再考」というイベントが、2017年9月30日に、桑沢デザイン研究所で開催されました。桑沢デザイン研究所同窓会・日本タイポグラフィ協会・東京タイプディレクタークラブの共催です。私は、同年の第16回佐藤敬之輔賞(個人部門)の受賞者ということで特別に招待していただきました。

UB6_1a.jpg

このイベントの第2部はシンポジウム[明日のタイポグラフィを考える]でした。「作り手の立場から」のパネラーとして、鳥海修さん、藤田重信さん、小林章さんの3人が登壇されました。このメンバーだと、[明日のタイポグラフィを考える]というより、[明日のタイプデザインを考える]ではないのかなあと思いました。
鳥海さんは字游工房を設立してから、藤田さんはフォントワークス、小林さんはライノタイプ(現モノタイプ)に入社してから、写研在職中よりも自由にのびのびと活動しているように感じます。3人とも退職後に活躍していますので、それだけ才能が押さえつけられていたということかもしれません。
鳥海さんは社歴としては私の2年後輩ですが、1955年3月生まれ(私は1954年5月生まれ)なので同学年です。字游工房の2代目社長として、游明朝、游ゴシックなど、数多くの活字書体を手掛けられました。写研・モリサワ・字游工房共同による石井明朝、石井ゴシックの改刻プロジェクトのプロデューサーもつとめられています。『文字を作る仕事』(晶文社、2016年)を上梓されています。
藤田さんは社歴としては私より2年先輩ですが、年齢は2歳年下です。フォントワークスでは、筑紫明朝、筑紫ゴシックをはじめ、多様で多彩な書体を生み出しています。『筑紫書体と藤田重信』(パイインターナショナル、2024年)が刊行予定です。
小林さんは社歴も年齢も6年後輩です。ライノタイプでは欧字書体を数多く制作されていましたが、モノタイプになって日本語書体のクリエイティブ・タイプディレクターとして、たづかね角ゴシックなどを手掛けられています。また『欧文書体のつくり方』(Book&Design、2020)など数多くの書物を執筆されています。

パネラーの自己紹介、制作書体のプレゼンテーションから始まりました。私は、最前列の招待席から、(あえて上からの目線で言わせていただきますが)後輩たちの活躍を頼もしく思いながら聴講させていただきました。
ああ、正直に白状しますと、「佐藤敬之輔再考」というイベントなのだし、同年の佐藤敬之輔賞(個人部門)の受賞者なのだから、せめて制作書体のプレゼンだけでもやらせてもらいたかったなあと、心の中で思ってしまいました。すみません。

UB6_1b.jpg

ちょっと妄想してみました。游明朝と游ゴシック、筑紫明朝と筑紫ゴシック、たづかね角ゴシックに並べるとすれば、KOめじろ上巳MとKOめぐろ端午Bになるのでしょうか。残念ながら、これらは完成することはありません。だとすると、同じ舞台に立つ日は永遠に来ないのでしょうね。
posted by 今田欣一 at 11:38| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月12日

[追想6]『デザインのひきだし26』から始まった「白澤」

『デザインのひきだし26』(グラフィック社、2015年10月25日発行)というムックで、「もじ部 フォントの目利きになる!15 typeKIDS(今田欣一と仲間たち)編」という記事が掲載されています。

UB6_2a.jpeg

その中で、漢字書体「白澤中明朝」「白澤太ゴシック」「白澤太アンチック」が取り上げられています。これはtypeKIDSという勉強会の体験学習のためだけに書体見本を作成したものです。

UB6_2b.jpeg


その後、「もじ部 フォントの目利きになる!」という連載記事が、『もじ部 書体デザイナーに聞くデザインの背景・フォント選びのコツ』(雪朱里+グラフィック社編集部編著、グラフィック社、2015年)として出版され、さらには中国語(繁体字版、簡体字版)でも翻訳出版されました。
当初は欣喜堂として制作するつもりはなかったのですが、ここに至って、何らかのカタチで継続しようかと思うようになりました。なにより「白澤」という書体名に愛着が湧いてきたのです。白澤とは古代中国において、鳳凰、麒麟と同じように、有徳の王の時代に現れるという想像上の神獣です。
漢字書体は漢字表記にしたかったので、書体名を「白澤明朝」「白澤呉竹」「白澤安竹」に変更しました。ほしくずやコレクション「和字Big Dipper 3+3」(2023年)の和字書体「きたりすロマンチックW3」「きたりすゴチックW6」「きたりすアンチックW9」、および「みそらロマンチックW3」「みそらゴチックW6」「みそらアンチックW9」に組み合わせることを前提に、現代的な筆法・結法になるようにしました。
組み合わせる欧字書体としては、フレイヘイド・セリフ(Vrijheid Serif)、フレイヘイド・サン(Vrijheid Sans)、フレイヘイド・スラブ(Vrijheid Slab)として制作しています。フレイヘイドとは自由を意味するオランダ語で、幕末当時の言い方だそうです。
いずれにせよ、発売することのない「見果てぬ夢」の書体ですが、欣喜堂として記録に残しておきたいと思います。

posted by 今田欣一 at 08:08| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月13日

[追想6]『+Designing 44』と「美華」「伯林」「倫敦」

『+Designing 44』(マイナビ出版、2017年9月29日発行)というムックに、私のインタビュー記事が掲載されました。
取材は2017年8月17日に行われました。夏休みで盆帰省していたということもあり、せっかくだから、旧閑谷学校でやろうと提案しました。写真は国宝の講堂で撮影したものです。校門の写真も掲載されました。ここでのインタビューが実現したのは、たまたま取材の日程が帰省と重なったからですが、和気閑谷高校・旧閑谷学校の知名度アップに少しでも貢献できればと思います。

UB6_3a.jpeg

その記事で「日本語書体三傑」の構想が紹介されました。漢字書体においては、美華書館の近代明朝体を復刻した「美華」、東京築地活版製造所が制作していた呉竹体を復刻した「伯林」、安竹体を復刻した「倫敦」の主要三書体です。実際にリリースすることは無理だとしても、欣喜堂としての大きな柱となりうるものだと考えています。

UB6_3b.jpeg

和字書体としては、「和字おゝはなぶさ Family 7」(2009年)、「和字おゝくれたけ Family 9」(2009年)、「和字おゝことのは Family 9」(2012年)としてリリースしましたが、これに漢字書体、欧字書体を組み合わせて、グランド・ファミリーとして構築しようと考えたのです。
さらには、ほしくずやコレクション「和字Southern Cross 4」(2015年)の和字書体「ときわぎロマンチックW3」「ときわぎゴチックW6」「ときわぎアンチックW6、W9」との組み合わせも考えています。
posted by 今田欣一 at 08:18| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年11月08日

[余聞6]見果てぬ夢

日本語総合書体では「日本語書体八策」の12書体以外の書体を販売する予定はありません。ただ欣喜堂の全体構想としては何らかのカタチで残しておきたいと思い、その一つとして、それぞれの書体で書体名を組んだポスターを作りました。

UB6_4a.jpg


[日本語書体四坐]
汲古明朝体 毛晋M Combination 3
江戸御家流 臨泉M Combination 3
近代明朝体 上巳M Combination 3
近代呉竹体 端午B Combination 3

[日本語書体三傑]
三傑明朝体 美華M Combination 3
三傑呉竹体 伯林B Combination 3
三傑安竹体 倫敦BK Combination 3

[星屑書体集成]
風プロジェクト 5書体
波プロジェクト 11書体
音プロジェクト 4書体
光プロジェクト 6書体


背景写真…岡山後楽園から臨む岡山城。2023年1月4日撮影。


(参考)

和字書体、漢字書体、欧字書体それぞれで、制作している全書体を並べたポスターを作りました。和字書体はこのすべての書体を発売しています。

和字書体三十六景・十二勝ポスター

UB6_4c.jpg

和字書体ほしくずやコレクションポスター

UB6_4d.jpg

漢字書体二十四史・十二州ポスター

UB6_4e.jpg

欧字書体十二宮・四天ポスター

UB6_4f.jpg


欣喜堂で発売している(制作中を含む)全書体の名称を並べたポスターを作りました。

和字書体七十二候・日本語書体八策ポスター

UB6_4b.jpg


posted by 今田欣一 at 20:06| Comment(0) | 活字書体打ち明け話・6 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする