このイベントの第2部はシンポジウム[明日のタイポグラフィを考える]でした。「作り手の立場から」のパネラーとして、鳥海修さん、藤田重信さん、小林章さんの3人が登壇されました。このメンバーだと、[明日のタイポグラフィを考える]というより、[明日のタイプデザインを考える]ではないのかなあと思いました。
鳥海さんは字游工房を設立してから、藤田さんはフォントワークス、小林さんはライノタイプ(現モノタイプ)に入社してから、写研在職中よりも自由にのびのびと活動しているように感じます。3人とも退職後に活躍していますので、それだけ才能が押さえつけられていたということかもしれません。
鳥海さんは社歴としては私の2年後輩ですが、1955年3月生まれ(私は1954年5月生まれ)なので同学年です。字游工房の2代目社長として、游明朝、游ゴシックなど、数多くの活字書体を手掛けられました。写研・モリサワ・字游工房共同による石井明朝、石井ゴシックの改刻プロジェクトのプロデューサーもつとめられています。『文字を作る仕事』(晶文社、2016年)を上梓されています。
藤田さんは社歴としては私より2年先輩ですが、年齢は2歳年下です。フォントワークスでは、筑紫明朝、筑紫ゴシックをはじめ、多様で多彩な書体を生み出しています。『筑紫書体と藤田重信』(パイインターナショナル、2024年)が刊行予定です。
小林さんは社歴も年齢も6年後輩です。ライノタイプでは欧字書体を数多く制作されていましたが、モノタイプになって日本語書体のクリエイティブ・タイプディレクターとして、たづかね角ゴシックなどを手掛けられています。また『欧文書体のつくり方』(Book&Design、2020)など数多くの書物を執筆されています。
パネラーの自己紹介、制作書体のプレゼンテーションから始まりました。私は、最前列の招待席から、(あえて上からの目線で言わせていただきますが)後輩たちの活躍を頼もしく思いながら聴講させていただきました。
ああ、正直に白状しますと、「佐藤敬之輔再考」というイベントなのだし、同年の佐藤敬之輔賞(個人部門)の受賞者なのだから、せめて制作書体のプレゼンだけでもやらせてもらいたかったなあと、心の中で思ってしまいました。すみません。
ちょっと妄想してみました。游明朝と游ゴシック、筑紫明朝と筑紫ゴシック、たづかね角ゴシックに並べるとすれば、KOめじろ上巳MとKOめぐろ端午Bになるのでしょうか。残念ながら、これらは完成することはありません。だとすると、同じ舞台に立つ日は永遠に来ないのでしょうね。